長い一日短い10年

先日P&Pのパスポートを引き取りにDen Haagにある日本大使館に子供を連れて出かけてきた。電車やトラムでバギーの乗り降りは大変なので旦那様に一緒に来てもらうように約束していたのに、彼は病気で外出できなくなってしまった。仕方なく疲れる事を覚悟で一人で子供2人をつれて朝早く出発した。

アムステルダムのトラムはほとんどバギーが乗せれる新しいタイプの車である。乗降口のすぐそばにバギー用の場所があってトラムの中を移動しなくて良いので便利である。オランダの電車のほうはプラットホームとの間に大きな隙間があいてる事が多いし階段を2段あがらなければいけない。子供を二人連れている時は一人を先に乗り降りさせ、誰かに手伝ってもらってバギーを持ち上げて運ばないといけない。でもたいがいこちらが聞く前に進んで手伝ってくれる人が多いので電車で困る事はない。オランダの駅にはエレベーターがついていないところも多い。ロッテルダムのような大きな駅でも駅自体が工事中のためもう2年もエレベーターなし状態だ。

10年ぐらいオランダに住んでいるがデンハーグに行く事は数えるほどしかなかったので、日本大使館への行き方を間違えてしまっていちいち大変だった。しかもデンハーグでは古い型のトラムしか走っておらず、乗り降りするときバギーを折り畳まないと入らないのだ。私が大変そうなのを見かねていろんな人が親切に手伝ってくれたのには本当に助けられた。デンハーグの人は車を持ってる人が多いのだろうか、バギーを押して歩いている家族をみかけなかった。

大分早く出かけたのに大使館に着いたのはお昼の閉館ぎりぎりになってしまった。パスポートを受け取ったはいいが、帰りの事を考えると気分が重くなったのでトラムラインをたどりながら歩いて駅まで行くことにした。そのほうが子供達の昼寝にも都合も良かった。たまにアムステルダムで子供連れでトラムに乗ろうとすると、目の前で扉を閉められたりする。先日もトラムストップよりかなり後ろでトラムが停まったので、子供を連れてバギーを押して走って乗降口に向かうと、早く飛び乗った客だけ乗せて私たちの目の前で扉を閉めてトラムが走り去るという屈辱を受けた。それもあってトラムはできるだけ避けたいという気持ちもあった。センターの方まで帰ってきた頃に大Pのほうが起きたのでそのままランチを食べる事にした。子供が元気で機嫌がいいとお出かけもそんなに大変ではないのだが、病気になりかけで機嫌がわるいと最悪なことになる。この日は幸い大Pのほうは始終機嫌がよく一度も骨なしチキン(床に泣き崩れる例のスタイル)にはならなかった。

大Pのおかげで遠出もさほどストレスを感じずに終わりを迎えようとしていた。アムステルダム中央駅に帰ってきていつものようにエレベーターに乗ると若い男の人も一緒にはいってきた。大Pがボタンを自分で押すのを微笑みながら見守っていると背負っていたリュックサックのチャックが開くのを一瞬感じた。「What!?」といいながらさっと後ろを見ると、一緒に乗ってきた男の手が財布の入ったリュックサックのポケットにのびている。「何してるの!?あんた。ちょっと一緒に来てもらおうか!!!」と自分では信じられないくらい大声で叫びながら1階についてすぐ目の前に見えた駅のインフォメーションデスクの人達に「この人私の財布をとろうとした!!!」と大声で訴えた。だが駅の人も周りの人も信じられないくらい無関心な態度をみせ、それに私がびっくりしているすきをみて男が歩き去っていった。バギーを押しているのも忘れて追いかけようとすると小Pが寝ていたバギーが倒れそうになり、同時に大Pも残したままだったことを思い出して足が止まった。人々は立ち止まって大声で叫んでいた私を見ており、始終をみていたインフォメーションの人達は私が立ち去る時声をかけようともしなかった。なんなんだ、この人達は。なんで見ているだけなんだ。子供を連れた母親が助けを求めているのに、なんで無視できるのだろうか。日本で同じことが起こったら駆けつけてくれる人がいることを知っているから余計に腹がたった。一瞬でこの国に住むのがいやになった。

順調だった一日の最後に起こった出来事を考えると、助けてもらったありがたさは帳消しになってオランダのことが本当にいやになった。10年住んでいるこの国、滞在許可が取れなくて大変だった事やオランダ語のクラスにがんばって通っていた事も忘れて日本に帰りたくなった。機転が利かなくて男の写真を撮るなどという考えが思いつかなかった自分にも嫌気がさした。そんなことを考えてるうちに眠れなくなってその日は長い夜をすごしたのだった。

今ではスリに隙をみせた自分に反省して怒りはおさまっているが、結局たった10年ではオランダの本当が見えてなかったようだ。長いようで短い10年。

どっしり腰をおろして微笑む平和な小P

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